後発のPR会社が日本一になった理由
眞藤 PR会社はどうやって収益を上げているのか、一般にはわかりにくいと思うんですが、どんなビジネスモデルなのでしょうか。
西江 基本的には、企業や団体と契約して、PR活動を代行しています。当社の場合、クライアントは現在、400~500社あります。簡単なものですと、ニュースリリースサイト「PR TIMES」で情報を発信するようなサービス(料金は~100万円)もあります。ネット上のEPR(電子PR)なども含めた年間PR計画を一括して引き受けると、4000万~5000万円の収入になるケースもありますね。
眞藤 ベクトルは、PR会社としてはいまや日本最大級ですね。次の事業目標は何ですか。
西江 日本の広告市場は5~6兆円規模で、そのうちPRはまだ約1000億円に過ぎません。しかし、リーマン・ショック後の広告費削減の影響で、コストの安いPRは注目されていて、市場は毎年25~30%も伸びているんですよ。そのなかで、PR会社として圧倒的な日本一を目指します。さらに、アジアにも目を向けています。クライアントを1000社獲得し、今後5年以内にアジアナンバーワンを達成したいと考えています。
眞藤 既存のPR会社もたくさんあります。そのなかで、後発の御社が急成長できた理由は何でしょうか。
西江 PRのことを何も知らなかったのがよかったのでは。実は、私はこの仕事を始めるまで、PRに関わったことがなかったんです。
眞藤 つまり、PRについて固定観念や専門知識がなかった代わりに、渦中にいると見えないものが見えた?
西江 そうではないかと。IT一つとってもそうですが、経営環境の変化はものすごく早い。PRの世界にどっぷり漬かっていたら、体質を変えるのに10年かかったかもしれませんが、当社はしがらみがない分、変化に素早く対応できたのが強みかもしれません。
眞藤 昔ながらのPR会社には、「メディアの人と仲良くなって、クライアントの情報を取り上げてもらう」というイメージが強いですよね。
西江 それだけでは会社を続けることはできたとしても、PRを産業化することはできないと思います。
眞藤 PR会社の存在価値というのは何でしょうか。
西江 クライアントが伝えたい情報をどうやって世の中に広めるのか、その戦略を立てるのがPR会社の役割です。言いたいことを一方的に伝えてもメディアは取り上げてくれません。メディアの関心を引くような演出をして、そのなかに伝えたい情報を落とし込む。そうした情報のプロデュース機能や情報開発、もっと言えば”言葉を作る”ことも求められるのではないかと考えています。
眞藤 言葉を作るとは、具体的にはどんなことを意味するのですか。
西江 たとえば、新商品のパソコン対応機能性メガネを認知させたい場合、個別の商品名ではなく、「PCメガネ」といったカテゴリー的なネーミングにして、ネットなどで浸透させます。そのほうがメディアにも取り上げられやすく、ネットでも検索されやすいからです。
日本よりもチャンスが大きいPRのアジア市場
眞藤 10月には、みんかぶ(投資家向け情報サイトの運営会社)と提携して、IR(インベスター・リレーション)支援サービス「IRバンク」もスタートされました。
西江 上場してみて感じたのが、「従来のIRは投資家のニーズにマッチしているのか」ということ。決算短信の配布やアニュアルレポートの作成がIRの中心と見なされがちですが、投資家の知りたい情報をすぐに伝えていませんよね。
眞藤 確かにIRの情報は古い。ネットがこれだけ普及しているのにどうなんだ、と思います。
西江 株価を左右する要因を考えると、一つは企業の財務情報、もう一つは企業にまつわるニュースなんです。財務情報は適時開示が義務づけられていますが、ニュースについてはIRとしての対策ができていない。しかも、ニュースの発信源としてネットの影響は大きいのに、IRはITを活用できていない。そこで、ITを武器にしたIRを展開しようと考えたわけです。
眞藤 ところで、中国を筆頭とするアジア諸国はPR市場として巨大です。御社はアジア事業にも積極的ですが、どのような展開をお考えですか。
西江 もちろんPR事業のチャンスは、日本よりも大きいと考えています。中国にも他のアジア諸国にも、日本のような広告代理店はあまりありません。全国ネットのテレビ局や全国紙といった日本でいうキー局が発達していないからです。メディアのスペースを確保して、そこにCMを流すといった発想はなく、クライアントも効率的にブランドや商品を宣伝するにはどうしたらいいか悩む。それだけに、PR会社の出番が多いわけです。
眞藤 海外には、オムニコム、WPPといったグローバルな総合広告会社がありますよね。彼らも当然、アジアを狙ってきそうですが。
西江 外資とも互角に渡り合いたいですね。ただし、総合広告会社になるつもりはありません。アジアでは、”ナンバーワンPRグループ”的な存在を目指します。
眞藤 成長戦略として、M&Aは視野に入れていますか。
西江 日本国内では、同業や関連業種を含め、チャンスさえあれば、積極的に考えたいですね。アジアでは当面考えていません。日本と違ってリスクが大きいからです。しかし、海外事業に慣れてきたら、検討の余地は大きいでしょう。
眞藤 PRのリーディングカンパニーとして、どんな将来像を描いているのですか。
西江 目指すのは”アジアの戦略PR代理店”でしょうか。アカウント(広告主)のほうから寄ってくるような、自前の情報媒体の構築にも力を入れています。たとえば、「AdGang(アドギャング)」(広告関係)といった企業ニュースサイトも自社で運営しています。それに、メディアはマスコミやネットだけではありません。イベントや商業施設といった、PRに活用できるあらゆるチャネルを開拓していこうと考えています。
眞藤 PR事業は奥が深いですね。本日は興味深いお話を聞かせていただき、ありがとうございました。