公募増資で向こう3年間は売り上げゼロでも安泰
2000年に米国サンディエゴ市で設立された製薬企業のメディシノバは、05年に東証ジャスダックに上場し、翌06年には米国ナスダックに上場した。しかし、社員数は日米合わせてわずかに10人。設立以来、4つの医薬品を臨床開発中だが、4つともフェーズ2(有効性治験)の段階にある。フェーズ3(大規模治験)、承認申請を経て上市に至るのは数年後の見通しだ。
日本で創薬ベンチャーが羽ばたけない要因は資金余力にあるが、同社は「向こう3年間、日米とも売上高がゼロでも食べていける資金を確保した」と創業社長でCEOの岩城裕一氏は打ち明ける。
この発言を裏付けるのが今年8月、米国で実施した公募増資である。世界有数の独立系資産運用グループであるフィデリティの中核企業、エフエムアールシー社が邦額換算で14億7000万円相当を払い込み、主要株主(11・73%)となった。さらに同社が実施する4つの治験に対して、米国国立衛生研究所(NIH)から約20億円相当の治験研究費が供与されている。
同社の事業を取り上げる前に、岩城氏の経歴に触れておきたい。1949年生まれ。札幌医科大学卒業。移植免疫を専攻し、米国ピッツバーグ大学医学部病理・外科教授を経て現在は南カリフォルニア大学教授。臨床医として数多くの臓器移植手術を手がける一方で、複数の米国創薬ベンチャーの社外取締役や投資会社顧問として、新薬開発にも携わってきた。日本でもジャフコや日本政策投資銀行の顧問に就任している。
なぜ、これだけ幅広く臨床とビジネスの双方に関わっているのか。背景には医療に対する日米の差異がある。
中堅製薬企業から医薬品候補化合物の開発販売権利を取得
岩城氏によると、米国の医療は初めに治療ありきで下流からアプローチするが、ドイツ医学の影響を受ける日本では診断プロセスを重視し、上流からアプローチする。この傾向は依然として変わらず、アルツハイマーを例にとれば、日本では疾患を根治しようと診断に注力する。一方、米国では症状の進行を遅らせ、健常者と同等のアクティビティが可能になるように、QOL(生活の質)重視の医療を提供するほうに重点を置いている。
「国民の健康が担保されて初めて、産業育成や都市形成など社会が成り立つ。私は日本の医療に風穴を開けたい」と力を込める岩城氏は、特異なビジネスモデルを確立した。
同社は、まず欧米での開発体制を有していない日本の中堅製薬企業から、フェーズ1(安全性治験)にある医薬品候補化合物の欧米での開発販売権利を取得する。その化合物に対して2つのチャネルで臨床開発を進め、フェーズ3、承認申請を経て新薬開発・販売に結びつける。
ひとつは自社による臨床開発である。もうひとつのチャネルは提携先による事業化で、フェーズ3で開発販売権利を提携先に導出し、当該企業で臨床開発を実施して新薬開発・販売を展開する。