「東京チカラめし」再生の計算式
眞藤 ガーデンの國松社長には、いくつかM&Aの案件の仲介をさせていただいてきました。そのなかでいつも驚かされるのは、買収金額を含めた意思決定までのスピードがとてつもなく速いことです。今年7月の「肉寿司」の買収の仲介に当たらせていただいたとき、買収の意思決定までが本当に早く、その分、売主であるスパイスワークス社及び下遠野社長との譲渡後の具体的なビジョンの共有に時間をかけることができました。いつも同じようなスタンスで臨んでいらっしゃるのでしょうか。
國松 はい。特にスパイクワークスの下遠野亘社長とは別な仕事で接点があり、胸の内を明かしやすい関係だったことが大きかったと思います(笑)。基本的に私たちはその会社や事業が欲しいと思うから交渉しており、先方も早く売りたいと考えていらっしゃるわけです。そうであれば、当然のことながらデューデリジェンスやリスクヘッジは必要ですが、先方が求める条件をベースに、こちらが譲れない条件だけを伝えて合意できそうなら、早く買収を決めたほうがいいと思っております。なぜなら、交渉が長引けは長引くほど、競合する買い手が現れたりして、競り合うことになる。「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、お互いにM&Aに対するモチベーションが高いうちに意思決定したほうがいいという姿勢を貫いています。
眞藤 なるほど。14年6月に買収した三光マーケティングフーズの「東京チカラめし」のときも、4月の基本合意からわずか2カ月で買収に至っています。このときはどのような判断でいらしたのかを教えてください。
國松 当初のデューデリジェンスで東京チカラめしは月3000万円の赤字で、社内外から「絶対にやめたほうがいい」と猛反対をされていました。そして、実際に引き継いでみたら、その倍の月6000万円の赤字であることがわかりました。結果的に年間7億円以上の赤字の事業を、7億円で買収したわけです。とはいうものの、私の頭のなかには、ある計算が存在していました。
譲渡対象となる68店舗はすべて、繁華街にあったり駅に近かったり、飲食店としての立地条件が抜群によかったのです。そして、厨房、エアコンなど1店舗当りの造作を簿価に換算すると680万円ほどになりました。それに対し、譲渡金額は1店舗当たり約500万円にすぎません。これだけ見ても、実際には割安な案件であったことが分かるわけです。
眞藤 そして買収した後、全て赤字だった店舗を見事に黒字に転換されていきます。それ以前にガーデンは飲食業を中心に合計13件ものM&Aを行い、その全てを再生した実績がありました。そこで培った業態転換を含めた商品設計や店舗デザイン力などのノウハウを、フルに注ぎ込まれた結果なのですね。
國松 その通りです。当初から「家系ラーメン」への業態転換がベストだと考えていて、それが現在71の直営店を展開する「壱角家」につながっています。その業態転換が功を奏して、売り上げを1.5~4倍に伸ばし、全店舗の黒字化を実現していきました。たとえば、あるカウンター11席のみの店舗は、買収前には月商285万円で赤字だったのですが、買収後はすぐに月商652万円へ伸びて、営業利益も203万円の黒字へ浮上しました。
眞藤 ものすごいことですね。その後、15年3月に買収した「神戸らんぷ亭」も、ラーメン店への転換を図ることで再生に成功されています。
國松 買収した時点では累積赤字が11億円もあって、長年に渡って毎月赤字を計上している会社でした。それを牛丼からラーメンに業態転換することで、わずか3カ月後に黒字化を達成し、6カ月後には全店舗の月の営業利益が100万円を超えるようになりました。そのなかには、月商1451万円で営業利益が525万円という繁盛店も現れるようになったのです。
買収先の企業価値の半分は人材
眞藤 新橋にあるKSG本社の近所に行き着けの神戸らんぷ亭があって、「いつの間にラーメン屋に変わったのだろう」と不思議に思ったことをよく覚えています(笑)。話が変わりますが、企業の再生には、現場で働くスタッフの協力なしには実現できません。ガーデンでは買収した会社の従業員をほとんど継続して雇用されています。買収後にリストラに着手するケースが多いなか、このような異色ともいえる施策にも、成功の秘密が隠されているのではないでしょうか。
國松 実は、それまでできていなかった店舗の清掃をしっかり行なうだけでも、店舗の売り上げは見違えるようにアップしていくものなのです。しかし、安い給料での長時間労働を我慢してきた現場のスタッフたちには、「自分たちの店」という意識はもちろんのこと、「店をよくしていこう」というモチベーションが欠けていることが多いのが、残念ながら現状です。
そこで買収した会社のスタッフには、まずガーデンの経営理念である「自らが変わる、人生が変わる」を説いていきます。もっと具体的にいうと、「好きなこと、やりたいことをするために働いているのではないのですか。だったら、お客さまに喜ばれる働き方に変え、店の売り上げをアップすることで自分の給与を増やし、それを実現していこうよ」と何度も繰り返し話していくわけです。
そして、お客さまから「ありがとう」「また来るね」といわれ、実際に売り上げがアップしてきたら、自ずとモチベーションが高まっていきます。そうやってスタッフたちが自分で稼いだお金は、彼らにも使う権利があります。そこで、各現場のマネージャにスタッフとのミーティングで使う交際費を認めているわけです。
眞藤 ラーメンを作ったり、皿を洗ったり、毎日同じ作業を黙々と続けることを半ば強いられてきたスタッフにしてみたら、目からウロコが落ちる思いの毎日なのでしょうね。
國松 はい。買収後に店舗の売り上げが回復してくると、「自分も変われるんだ」という自信がつき始め、業態転換との相乗効果もあいまって好循環のスパイラルに入っていきます。ですから私は、「買収した先の企業価値の半分は人材で占められている」と考えています。買収先の従業員に以前と同じ労働条件と雇用を半年間ほど保証し、リストラは一切行いません。その後は、全員が納得する形での公平な人事評価で処遇を行なっていくわけです。
眞藤 次に今後の展開についてお聞きしたいのですが、今回の肉寿司の買収はガーデンにとって一つのターニングポイントになるのでしょうか。
國松 確かに、これまでの業態転換を柱とした企業再生とは一線を画しています。美味しいお肉を寿司という、まったく新しい形で提供する肉寿司の業態には当初から魅力を感じていて、それをさらに伸ばしていきたいと考え、今回の買収に至ったわけです。しかし、それには肉の仕入れなど自分たちにはないノウハウが必要で、譲っていただいたスパイスワークスの下遠野さんの力を借りていくことになりました。ここで新に「協業」という展開が、ガーデンのなかに生まれたわけです。
そうした肉寿司のポテンシャルは高く、3カ年計画で直営とFCを併せて国内200店舗は十分にいけると見ています。今年末までには10店ほど出店する計画ですが、これからメガFCや既存FCの加盟が加速度的に増えていき、200店出店の達成時期は前倒される可能性が高いでしょう。そうしたなかで、新たなメニューや接客方法などを開発し、ガーデンという会社の付加価値をさらに高めてくれるものと期待しています。
眞藤 M&Aによる事業の拡大という方針は今後も変わらないのでしょうか。
國松 その通りです。現在、株式の上場の準備を進めています。信用力のアップもさることながら、その最たる目的は買収資金の調達です。いい案件があっても、手元の資金に余裕がなければ、せっかくのチャンスを逃してしまうことになります。また、既存の事業とのシナジーが見込めるのであれば、これまでのような株式100%の取得にこだわらなくてもいいのではないかと考えています。
眞藤 買収した企業が再生することは、買い手だけでなく、売り手、そこで働く従業員など関係者全員の幸せにつながるわけです。これからのガーデンのM&A戦略に注目するのとともに、優良な案件を積極的に提案させていただければと考えております。本日はありがとうございました。